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「ゲゲゲの鬼太郎」の作者としておなじみの水木しげる。NHK朝ドラにもなった夫人のエッセイにより、その人柄も広く知られることとなった国民的漫画家だが、彼の作品に幼少期から当たり前のように接してきたという“イキウメ”の前川知大が水木ワールドに挑む舞台「ゲゲゲの先生へ」が、10月8日に東京芸術劇場 プレイハウスで開幕した。本作は前川のオリジナル。水木作品の舞台化でも、水木自身を描いた評伝劇でもないが、ファンとして深く知る前川が、水木の膨大な作品群から登場人物や言葉、エピソードを借りて、ひとつの作品に編み上げた。主演の佐々木蔵之介は、水木が最も愛したキャラクター“ねずみ男”をモデルにした根津(ねず)役を演じる。ほか、松雪泰子、白石加代子ら、あやかしの世界を表出させるにふさわしいムードの俳優陣が集まった。
完全暗転の中、上手で演奏するパーカッションの音がおどろおどろしくも力強く響く幕開き。舞台奥から這いつくばる形で、根津(佐々木蔵之介)が登場する。20年の眠りから覚めたという根津の正体は、半分人間半分妖怪の“半妖怪”。人間の見た目をしているが、据わった目が投げかけるねっとりとした視線はやはり、普通の人間のそれではない。「うるさいわねえ」などしばしばオネエ言葉が混ざるのは、モデルの“ねずみ男”の片鱗か。その根津のあばら家に、人間のカップル(水田航生、水上京香)が迷い込んでくる。謎の怪物の出現で混乱している都会から逃げてきたふたりで、女は妊娠中。なお障子に畳、ちゃぶ台のセットからすると昔話のようだが、時代設定は平成60年という(元号が変わるため)絶対に到来することのない近未来。ビジュアルと設定のこのアンバランスが、より作品に不気味さと深み、批判性を与えている。彼らが暮らす時代には人口が激減し、希少な妊婦と赤子は政府の管理下に置かれる。それから逃れようとこの廃村に迷い込んだふたりに根津は、詐欺師だった自分がなぜ“半妖怪”になったのかといういきさつを語る……。
観劇後、不思議な夢を見ていたかのようでいて、ピリリとスパイシーな感覚が残る。水木の人生観に基づく、現代人へのけして甘くないメッセージが響いたからかもしれない。水木作品同様、本作の妖怪たちは人間よりも人間臭く、人間たちこそが怪物のようだ。選択肢の多すぎる現代における“本当の豊かさ”を、思わず考えさせられる。敬愛する作家の魂を、まるでイタコのように自身に乗り移らせて書いた、あの世とこの世のコラボレーション? 前川から水木への恋文兼感謝状のようなこの作品は、現代に生きる私たちに大切なものを届ける。
東京公演は10月21(日)まで。その後全国を周る。
取材・文:武田吏都
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