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小川絵梨子が芸術監督に就任し、新シーズンが幕を開けた新国立劇場。10月のカミュ「誤解」(演出/稲葉賀恵)に続き、11月はハロルド・ピンターの「誰もいない国」が寺十吾の演出で上演される。柄本明、石倉三郎、有薗芳記、平埜生成という実力派の俳優陣がそろった稽古場に足を運んだ。
物語はロンドンの屋敷の一室で展開。舞台上には、ソファや酒のボトルが並んだ棚などが置かれているのだが、特徴的なのは舞台に傾斜がついており、しかもその傾斜の角度が通常とは逆で客席側が高く、奥に行くほど低くなっているということ。ここで、主人のハースト(柄本)、彼と酒場で出会い、家までついてきた自称・詩人のスプーナー(石倉)、この家で暮らすフォスター(平埜)とブリグズ(有薗)の4人が会話を繰り広げ、物語が進んでいく。
柄本、石倉は以前から取材の場やトークイベントで、4人が交わす会話の意味や終着点について一貫して「わからない」と語っており、そこにこそ魅力があるとも語っていたが、寺十も「物語が、ある最終目的を目指して進んでいないのが魅力。噛み合わない会話の中で、各々の下心や戦略、嫉妬などが絡み合い、巧みな攻防が展開する」と本作ならではの会話の面白さを明かす。
柄本をハースト役にと提案したのは寺十自身だが、その理由は「直感。この本をやる上で“これはどういう意味?”などと聞くことをナンセンスだと思ってくれそうな人だから」とのこと。まさにその見立て通り、稽古場では、時折、寺十が「もう少し強めで」「もっとゆっくり」などとニュアンスを演出する姿は見られたが、意味や行動原理などを話し合ったりすることはない。柄本はたびたびシーンの合間に「いやぁ、意味わかんないね(笑)」と首をひねりつつ、しかし、スタートが掛かると、石倉らと丁々発止のやり取りを繰り広げ、ちょっとした沈黙、リアクションなどが不思議と見る者の笑いを誘う。
ハーストは当初、気だるそうにスプーナーの言葉に返事をしていたが、二幕目になると突如、過去の時間か妄想の世界に暮らしているかのように、別人となって熱く語り始める。最初は慇懃な態度でハーストと接していたスプーナーは徐々にズケズケとものを言うようになるが、石倉は江戸っ子のようなべらんめぇ口調でハーストらと“舌戦”を繰り広げる。
平埜が演じるフォスターは、寺十いわく「客と芝居の橋渡しを担うポジション」とのことだが、胡散臭い来訪者に警戒心を強めていく。若い平埜が柄本、石倉にどう挑むかも見どころだ。有薗が演じるブリグズは、クールに淡々と主人、同僚、来訪者に接するが、途中、凄まじい長ゼリフも披露する。
個性的で一向に噛み合うことのない4人の男たちの会話だが、寺十が「だんだん、先の展開を読む気もなくなってくる」と語る通り、その場、その場でのやり取りを聞くのが、まるでライブで音楽を聴くかのように楽しくなってくる。まさに考えるのでも理解するのでもなく、感じる楽しさを教えてくれる芝居になりそうだ。「誰もいない国」は11月8日(木)より新国立劇場にて開幕。
取材・文:黒豆直樹
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