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江戸から明治へと移る時代、文明開化の訪れとともに生まれた「新派」が、創始130年を迎えて、日本ミステリー史上最大の人気作『犬神家の一族』を上演。11月1日(木)、大阪松竹座にて幕を開けた。
本作は1950年に雑誌「キング」で連載された横溝正史の長編推理小説で、1976年に角川映画の第一作として市川崑監督により映画化されて大ヒットを記録。その後、幾度となく映画化、ドラマ化、舞台化されてきた人気作だ。戦後間もない頃、信州の財閥の屋敷を舞台に、莫大な財産を残して他界した犬神佐兵衛の遺産相続を巡る骨肉の争いを描いた本作。名探偵・金田一耕助が、過去と現在に張り巡らされた謎に挑む…。
佐兵衛の腹違いの三人娘、松子、竹子、梅子を演じるのは波乃久里子、瀬戸摩純、河合雪之丞。それぞれ佐清(すけきよ)、佐武(すけたけ)、佐智(すけとも)という一人息子があり、なんとしてでも遺産を我が物にするべく目には見えない火花を散らし、けん制し合う。しかしその強さの裏にはそれぞれに“母”としての深い愛情が見える。新派を牽引する水谷八重子は琴の師匠・宮川香琴役で、物語の鍵を握る人物だ。どっしりと存在感のある演技で、謎めいた人物を演じている。私立探偵・金田一耕助には喜多村緑郎。『黒蜥蜴』『怪人二十面相』での明智小五郎に続く探偵役だ。名探偵とはいえ、ちょっと抜けたところもあるのが親しみやすく、佇まいもイメージにピッタリだ。ピリッと緊迫した空気が流れる犬神家の中で、佐藤B作演じる警察官の橘署長、田口守演じる弁護士の古館と共に、観客が安心できる存在となっている。さらに、新派には初出演となる浜中文一も、松子の息子・佐清と謎の青年・青沼静馬の二役を、熱のこもった演技で魅せる。
明治時代に生まれ、その時々の風俗や人情を敏感にとり入れながら、古き良き日本の美しさを現代に伝え続けてきた新派。本作ではミステリーとしての面白さはもちろんだが、親子の情愛とそれゆえの狂気を深く描いた人間味のある作品に仕上がっている。
大阪公演は11月10日(土)まで、東京公演は11月14日(水)から25日(日)、新橋演舞場にて上演。
取材・文:黒石悦子
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