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1964年の東京五輪で銅メダルを獲得した円谷幸吉と、次のメキシコ五輪で銀メダルを獲得した君原健二、そのふたりのマラソンランナーの姿を描いた舞台『光より前に〜夜明けの走者たち〜』のプレビュー公演が11月14日に上演され、翌15日に開幕した。そのプレビュー公演の模様をお届けする。
谷賢一が脚本・演出を手掛ける本作は、東京五輪での活躍で一躍ヒーローになるも次の五輪を目前に「美味しうございました」で知られる遺書を残し自殺した円谷と、東京五輪で実力を発揮できず1度は引退を考えながらも次のメキシコ五輪でメダルを獲り、今もなおランナーとして走る続ける君原という、対照的なふたりの物語を初めて作品化する舞台。円谷を宮崎秋人、君原を木村了、スポーツライター・宝田を中村まこと、君原のコーチ・高橋を高橋光臣、円谷のコーチ・畠野を和田正人が演じるほか、青山学院大学陸上競技部の原晋監督が特別監修として参加している。
開演し、まず驚いたのは宮崎と木村の身体だ。ドキッとするほど絞られており、マラソンランナーである円谷、君原の日々を一目で理解させる。シンプルなセットはフレキシブルに動き、ときに映像が投影されたり、ライブカメラで役者の表情が映し出されたりと迫力満点。しかし何より印象に残ったのは5人の芝居の熱。選手とコーチ、記者と選手など、この作品は一対一のやり取りの連続で物語が紡がれる。そのひとつひとつで生まれる熱をバトンのように繋いでいく芝居は、笑いのシーンも含め熱を途切れさせず、そこに観客も巻き込まれるような感覚があった。
劇中では何度も「なぜ走るのか」という台詞が出てくる。それをランナーでない私たちが理解するのは難しい。けれども作品のなかで君原に向けられる「マラソンはひとりで走っているのか」という問いを通すと、「なぜ走るのか」が私たちに直接関係ある言葉になっていくように感じた。物語のなかでは、その問いへのアンサーのように、いつも誰かが誰かに並走し、誰かが誰かの背中を押し、誰かが誰かを受け止め、誰かが誰かを導いていた。ひとりでは行けなかったであろう場所がいくつも描かれ、マラソンというひとりで走る競技とは真逆にあるような「あの人がいれば走れる」という台詞もあった。それはマラソンの話でありながら、私たちが生きることそのものを思わせた。
今とは違う時代背景、オリンピック選手の想い、厳しい勝敗の世界……私たちの生活には程遠いようで、いつの間にか“自分の”人生のことを考える作品。その不思議な交差をぜひ劇場で体感してほしい。
東京公演は11月25日(日)まで紀伊國屋ホールにて上演中。その後、11月29日(木)から12月2日(日)まで大阪・ABCホールにて上演。
取材・文:中川實穂
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