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稽古場に入ると、バンドが音を合わせていた。バンドだけではない。20分後から始まる通し稽古に備えて、俳優やスタッフもそれぞれ持ち場のチューニングに余念がなかった。そのリラックスさと緊密さの同居する空気は、上演の迫った音楽劇『世界は一人』のクリエイションの充実を十分にうかがわせるものだった。
劇団「ハイバイ」を主宰する岩井秀人が挑む、初の音楽劇となる。これまで人間関係の機微、とりわけ家族や集団における個人の自意識や、身近な感情のさざ波をストレートプレイの傑作に昇華してきた岩井にとって、チャレンジングな企画であることは間違いない。音楽担当としてそんな岩井の片腕となるのが、シンガーソングライターの前野健太だ。ふたりは2年ほど前、コドモ発射プロジェクト『なむはむだはむ』という作品を一緒に作り上げている。そのときの経験が、岩井に音楽劇というアイデアの具現化へと駆り立てた側面もあるという。
通常の音楽劇であれば、稽古入り前にすべての曲のデモが完成しているケースがほとんどだろう。だが、この『世界は一人』では、岩井の書いた歌詞をもとに、前野率いるバンドと俳優たちが、ある意味セッション的に仕上げた曲も少なくないそうだ。主演の松尾スズキ、松たか子、瑛太を含む総勢7名の俳優たちへの信頼がそれを可能にした。初めての台本読みで、まだメロディのついていない歌詞を松たか子が朗読するのを聞いた岩井は、感動のあまり、「もう、そのままやってください」とノドまで出かかったという。前野に言わせれば、「そもそも岩井さんの作る世界は、そのまま“歌”だと僕は思っている」。聞けば聞くほど、音楽劇への期待は高まっていく。
舞台監督の合図とともに、通し稽古が始まった。さびれた炭鉱街鉄鋼の町で育った子供たち。松尾スズキが8歳の子供から大人までを演じることは予告されていたが、他の俳優たちも、役を自在に変化させながら、そのつどリアルな感情を震わせていく。そして、やはりこれは緊密なセッションの成果なのだろう。あまりにも自然に、生々しく迫ってくる「歌」の数々。血を通わせた人間に取材して演劇へと仕立ててきた岩井と、現実の街を歩きながら歌を紡ぎ上げてきた前野健太の資質が相乗効果をもたらし、俳優の身体に根を下ろした歌を立ち上げているように見えた。たまらなくロマンティックだったり、笑えたり、痛切だったりする瞬間がいくつもある。それらが席数800を越える東京芸術劇場のプレイハウスでどこまで膨らむのか、楽しみで仕方ない。
公演は2月24日(日)から東京・東京芸術劇場 プレイハウスにて上演後、長野、大阪、宮城、三重、福岡を巡演。東京公演はチケット好評につき、立ち見席も発売中。
取材・文:九龍ジョー
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