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人気落語家・柳家喬太郎の新作落語を初めて舞台化した『ハンバーグができるまで』が3月20日に開幕し、東京・博品館劇場にて上演中だ。舞台には渋川清彦、馬渕英里何にくわえ喬太郎本人も出演。脚本・演出は劇団「ペテカン」の本田誠人が手掛ける。
まず舞台上に用意されていたのは高座だった。開演時間になると出囃子が流れ、落語家・柳家喬太郎が登場する。そこで始まるのは、落語同様“まくら”だ(喬太郎のまくらは落語ファンに人気が高いもの。ぜひ注目を!)。そして喬太郎の話に夢中になってきた頃、突然その世界が舞台として動き始めるのは爽快だった。
物語の中心にいるのは、渋川演じるマモル。舞台となる商店街には結婚前から住んでおり、馬渕演じる元妻サトミとは3年前に離婚している。今は再びひとりで暮らすマイペースな男だが、商店街を歩けばあちこちから「マモルちゃん!」と声をかけられ、その都度律儀に応えるような人物だ。そんな彼が暮らす“押付商店街”は、その名の通り“おせっかい”で個性豊かな人たちがいる場所。米屋や野菜屋、肉屋、スーパー、スナックとたくさんの人間が登場するが、ちょっとしたやり取りにひとりひとりの人生が映し出されていて、そこを知っていくうちにいつしか自分もこの商店街を知っているような気になるのが不思議だ。そんな商店街の人々のほとんどは「ペテカン」劇団員が演じており、劇団で培われたテンポのいいやり取りは落語の調子を彷彿させる。そこにヌルっと独自のペースで入っていくマモルは、渋川ならではの絶妙さだ。ちなみに商店街のメンバーには、今や「ペテカン」とは阿吽の関係の喬太郎もいるのだが、どんな役かはお楽しみに。意外なはまり役を抜群の演技力でみせる。
落語にはない展開もさまざまに盛り込まれている本作だが、そのなかでもマモルとサトミの物語は原作から深く掘り下げられていた。そこには20代から30代を恋人そして夫婦として過ごし別れた男女の気持ちや状況の変化が生々しく描かれており、それを渋川と馬渕が繊細に豊かに演じる。そんなふたりの行く先の“落ち”のつけ方は落語だからこそともいえるもので、印象的だった。
8人の登場人物による約25分の噺が、舞台では18人の登場人物による約2時間30分の物語に仕上げられている。それだけ広げていても後味は落語『ハンバーグができるまで』と同じものになっているのがおもしろい作品。原作ファンもぜひ楽しみにして劇場に足を運んでほしい。
バンド「In the Soup」のボーカル&ギター・中尾諭介による主題歌もやさしい舞台『ハンバーグができるまで』は3月24日(日)まで東京・博品館劇場にて上演中。
取材・文:中川實穗
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