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2016年、健康上の理由もあり表舞台での歌唱活動の無期限休業を発表した宮沢和史が、昨年の秋から再始動。【時を泳げ魚の如く】コンサートをマイペースで行なっている。ファンの歓喜に迎えられた本格的な復帰から半年余を経た今、心境あるいは音楽的な変化は何かあったのだろうか。
「過去に全都道府県をコンサートで周りましたが、今回のツアーはゆっくり間を空けて全国を周っているので、一本一本への準備期間での思いと余韻が、今まで以上に大きく、長いため、コンサート前後、当日、本番中の一挙手一投足が記憶の印画紙に焼き付けられています。今まで何度も訪れた場所でさえ、とても新鮮で、再発見がいくつもあります。これからもこういう姿勢で音楽が届けられたら自分らしい音楽活動のペースが出来上がるかな、と思っています」
もうひとつの嬉しい知らせは、5月に約3年ぶりのソロアルバム『留まらざること 川の如く』を発表したことだ。それぞれの曲の歌詞に、自身の偽らざる「今」が投影されている。詩作の変化は何に起因しているのだろうか?
「一旦完全に音楽、音楽シーン、から離れたことが大きかったです。10代の頃から音楽漬けで、そういったことは一度もなかったので、「ヴォーカリスト宮沢」ではなく、「人間宮沢」という視点で自分を見つめることができました」
中でも胸に突き刺さるのは「歌手」の一節 “僕はもう 歌手じゃないから”。 この言葉を生み、歌った背景には、大きな覚悟があったのではと想像する。どんな時期にどんな思いで作詞したのだろう?
「歌手を引退してから数ヶ月後です。もう人前で自分の作品を発表することは二度とないとわかっているのに、この詩を書いたことが不思議でした。さらに、メロディーをつけやすい字数の作詞になっていました。染み付いた職業病でしょうか?」
アルバムの1曲目『Paper Plane』の歌詞は、生命には終わりがあることに根ざしている一方、”キリストが見下ろす街”(=リオ)、”エイサーが踊る島”(=沖縄)への旅も歌いこんでいる。これまで世界中を旅し、様々な出会いと経験を通じて自身の音楽をさらに豊かなものにしてきた宮沢和史。彼の旅はこれからも続くのだろうか?
「自分の飛行、すなわち人生の航路が“ぶざま”であると自覚したことはとても素晴らしいことだと思っています。これからはカッコつけず、自然な旅ができる気がしています」
宮沢和史が自らライフワークに位置づけている【時を泳げ魚の如く】コンサートは、ニューアルバムの発表を経て、新たな局面を迎えた。7月5日(金)に世田谷区民会館にて実施されるチケットは好評発売中。
取材・文:中原仁
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