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長野の貧しい家庭に生まれ、独自の才覚で実業家となった橋本ひろしの生き様を、実際のオリジナル楽曲も盛り込みながら描く「今、僕は六本木の交差点に立つ」。1952年生まれの橋本が、なぜ50代になってシンガーソングライターとなったのか、そこに至るまでの軌跡も、アツい温度感で描かれる本作。主人公の“稲本ふとし”に中村誠治郎が扮するほか、有澤樟太郎、定本楓馬、さらに山寺宏一と、充実のキャストで贈る本作。初日直前の9月初旬、その通し稽古を見学した。
稽古場に足を踏み入れると、畳の部屋に敷かれたせんべい布団や、昭和を思わせる懐かしいデザインの扇風機、炊飯器などの小道具が。物語はサングラスをかけた“現在”のふとしが、ライブハウスでギターをかき鳴らすシーンから始まる。客に容赦なくツッコむ泥臭さ全開のトークも、次第にまっすぐな力強さを帯びるのは、演じる中村の美形だが愛嬌あるたたずまいが大きいだろう。続く歌のシーンでは、激しい動きのあまりサングラスが吹っ飛び、制作方の松田誠プロデューサーや演出の赤澤ムックら、スタッフ陣から思わず笑いが漏れるひと幕も。
続いて時間は30年ほど巻き戻り、長野の高校を出て東京・板橋の電気屋を手伝っていたふとしが、失意の中、帰郷の荷造りをしているシーンに。そこへ高校の同級生だった俊(有澤)がやってくる。スラリとした長身に“ジーパン”を着こなした俊は、すっかりスマートな“東京の大学生”。それでも本心からふとしの可能性を信じている気持ちが、その誠実なたたずまいから伝わってくる。ここでもジタバタする中村を有澤が止めようとして、中村が机に激しく足をぶつけ、シュンとなるハプニングが! その様子はそのまま、単純だが憎めないふとしの性格を表わしているようで、傍で見ていたキャストたちも思わず笑顔に。中村自身のもつキャラクターが、いい意味で役と重なっているのがわかる。
キーマンとなる久保田康徳役の山寺宏一は、「久しぶりの舞台」と言うものの、セリフの端々から久保田の内面までにじませる演技はさすが。硬軟自在の様子に、キャスト陣も真剣に山寺の芝居を見つめていた。また後半で実業家の津田山涼介を演じる定本楓馬は、前半では物語の狂言回し役。さりげなくも的確な進行で展開の一翼を担う。その他、小劇団出身ならではの細かすぎるアドリブで場を盛り上げる久ヶ沢徹、確かな存在感で物語に厚みをもたらす中込佐知子ら、舞台を引き締めるベテラン勢も頼もしい。すべてが効率とスマートさで測られる今の時代、あえての熱量と不格好さで観客に問いかける本作。そのざらざらとした手触りは、ぜひ劇場で実感してほしい。
取材・文/佐藤さくら
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