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日本初演から上演50年を迎えた松本白鸚主演のミュージカル『ラ・マンチャの男』が9月7日、大阪のフェスティバルホールで幕を開けた。白鸚は1969年、当時市川染五郎だった26歳でこの作品に主演し、翌年、日本人としては初めてブロードウェイから招聘され現地でも出演。以後、作品とともに50年の歩みを続けている。「ラ・マンチャの灯がいつまでも日本に灯されますように」と願う、今年喜寿の白鸚の、気迫のこもった演技と歌声が会場中に響き渡った。
16世紀末のスペイン・セビリアの牢獄が舞台。教会を侮辱した罪で投獄されたセルバンテス(白鸚)は、即興劇で申し開きをしようと思い立つ。セルバンテスは田舎の紳士キハーナと、キハーナが作り出したドン・キホーテを演じる。自由奔放なキホーテは遍歴の騎士となり、従僕のサンチョを従えて、真実を求める旅に出る。
三重構造になった哲学的な物語は、頭で理解しようとするよりも、体感するほうが何かを得やすい。とても喜寿とは思えない、セルバンテス、キハーナ、ドン・キホーテの3役を務め、そのセリフが血肉となり、今、役を生きている白鸚を見ていると、誰が想像上の人物で何が現実かを考えるのがナンセンスになってくる。
白鸚は「一番憎むべき狂気とは、あるがままの人生に、ただ折り合いをつけてしまって、あるべき姿のために戦わないことだ」というセルバンテスのセリフがこの作品のテーマだと語る。風車を巨人だと思い込み、娼婦のアルドンザを“憧れの姫”と敬う、狂人だと笑われるキホーテこそ、折り合いをつけず、あるべき姿のために真っすぐに戦っている真実だと気付かされていく。
2009年からサンチョを演じ「やるたびに身が引き締まる」という駒田一と白鸚のコンビは、ますます息もピッタリで笑いと涙を誘う。初参加の瀬奈じゅんは「50年の歴史を台無しにしないように、プレッシャーと緊張感でいっぱい」だと話すが、力強さの中に悲しみ、切なさを抱えたアルドンザを演じ切った。余命幾ばくもないキハーナをサンチョとアルドンザが抱きかかえるシーンは、荘厳として悲しく胸を打つ。劇中劇が終わり、セルバンテスは一歩一歩、裁判所への階段を登っていく。白鸚は「この作品は私の亡き父と、亡き菊田一夫さんのふたりの見果てぬ夢なんです。僕は、男ふたりの夢を『見果てぬ夢』という劇中歌でレクイエムとして、感謝と祈りとこれからへの思いを込めて歌い続けてきました」と話す。
また、「77歳の男がいう言葉ではないんですが、夢とは夢を叶えようとする心意気。口には出さないけれどそういう思いを胸に秘めた大人は素敵だと思います」ともいう。私たち観客の秘めた見果てぬ夢も背負って、今日も白鸚は舞台に立ち続ける。
大阪公演は9月12日(木)までフェスティバルホールにて上演。その後、宮城、愛知、東京公演あり。チケット発売中。
取材・文:米満ゆうこ
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