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11月7日(木)、KAAT神奈川芸術劇場にて『ドクター・ホフマンのサナトリウム〜カフカ第4の長編〜』が開幕した。ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の新作で、「もしフランツ・カフカの第4の長編が発見されたら?」というifから構想されている。
カフカは3作の長編を手がけたが、40歳の若さで結核で亡くなった小説家だ。晩年のカフカは、公園を散歩中の幼い少女と交流していた……というエピソードが本作の軸となる。100歳になった少女(麻実れい)の孫ブロッホ(渡辺いっけい)は、少女が持っていたカフカ第4の長編の未発表原稿を出版社に持ち込んでお金にしようと奮闘していた。
そんな“現実世界”と平行するように、第4の“小説世界”が物語られていく。主人公カーヤ(多部未華子)は婚約者の兵士・ラバン(瀬戸康史)と旅行をしていた。幸せなふたりだが、不穏な空気に飲み込まれるように旅の途中で生き別れてしまう……やがてカーヤのもとに「ラバンが戦死した」との報せが届く。ラバンの生死を確かめるため、戦地に向かうカーヤは、さまざまな誤解、裏切り、欲望など不思議な出来事に翻弄されていく。
いつしか“現実世界”と“小説世界”は影響しあい、さらにはカフカが生きていた過去までもが入り交じっていく。KAATの広い舞台を活かした舞台美術と映像がダイナミックで、客席までも吸い込まれそうだ。生演奏と小野寺修二の幻想的な振付によりステージを行き交うダンサー達の動きに、何度もぞっとさせられる。
先の見えない展開により渡辺や多部の困惑の演技が増す。一方、瀬戸や麻実や音尾琢真ら周囲が真剣で、そのギャップに物語の不条理さが際立つ。大倉孝二らによって客席は笑いつつも、リアリティある俳優の演技と演出が、つねに不穏さを漂わせる。これはカフカによって書かれた話なのかもと錯覚しそうだ。
カフカが小説家として有名になったのは死後だ。親友に「小説を焼き捨ててほしい」と言っていたカフカは自身の人生を後世に残す気はなかったのだろう。その人生を、さらに謎多く、彼の小説のように不条理に描き出した今作。まるでカフカの小説に迷い込み、物語に現実まで飲み込まれてしまうような不思議な感覚になる。しかしKERAのポップさと小野寺の振付の美しさにより、恐ろしくも居心地が良い。いつしか虜になる……これが条理の魅力だろうか。
上演時間は3時間30分(休憩15分をふくむ)。KAAT神奈川芸術劇場<ホール>にて11月24日(日)まで上演。チケットぴあにてチケット発売中。
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