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1月9日に下北沢・駅前劇場で初日を迎えたEPOCH MAN『鶴かもしれない2020』。俳優の小沢道成が、作・演出・出演・美術を兼ねるこだわりのひとり芝居。
民話『鶴の恩返し』をベースに舞台を現代の東京に置きかえるが、単なる“現代版”とは言えない。喧噪の繁華街、アパートの部屋、一人の女と一人の男のある物語。それは、優しくも哀しく、儚いけれど強い。出演者はたった一人なのに騒がしく、一人芝居の可能性と挑戦を感じる60分だ。
ある日、男の部屋に見知らぬ女(小沢)が訪ねてくる。道で泣いているところを優しくしてもらい「付き合ってください!」とやってきたのだ。そんなこんなで、ミュージシャン志望の冴えないが優しい男と、彼に献身的に尽くす女の、貧乏ながらも仲むつまじい同棲生活が始まる。
男は基本的にラジカセから音声が流れる。録音した音声相手だが、ふたりが生き生きと会話をしているようだ。小沢の繊細な表情とラジカセの声の豊かな喜怒哀楽で、姿は見えない男の表情やしぐさまでが見えてくる。女の料理を「美味しい!」と喜ぶ男、夢を語る男、ふざけたり照れたりする男を愛しそうに見つめる女の一途な愛情が切なくも幸せだ。舞台上にいるのは小沢ひとりだからこそ強く感情移入してしまう。
この女性像が魅力的で、慌てんぼうだったり、好きな男に辛らつにツッコんだり……小沢の反応と間合いが絶妙で大いに笑える。また、時に男側を演じ分けることもあり、エンターテイナーとしての小沢をたっぷり堪能できる。
なにより強い存在感が、こだわった舞台美術。壁一面のアクリルは黒くて無機質だが、だからこそそこにいる人を引き立て、想像力をかきたてる。しかも様々な仕掛けが隠されていて、贅沢な舞台転換に驚かされる!
物語に動きをつくる衣裳と照明が、怒濤の後半を盛り上げていく。『鶴の恩返し』とリンクしていたはずの物語は、都会の片隅に生きる女と男の孤独や幸せを浮き立たせまったく違う印象を与える1作に仕上がっていた。
2014年の初演では女に焦点をあて、2016年の再演では2人の関係をより具体的にした。今回はさらに変化し、過去作を観た人にもきっと新鮮な驚きがあるだろう。ひとりの俳優がひとつの作品を何度も丁寧に手がけるからこそ、再演のたびに生まれ変わり届く。演劇の情熱と可能性と遊びの詰まった舞台だ。
公演は13日(月・祝)まで。2月10日〜16日には横浜で『Maybe a Crane 〜鶴かもしれない〜』を上演。
取材・文・撮影:河野桃子
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