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小劇場ミュージカルとして絶大な人気を誇る『SMOKE』が、8月28日、東京・浅草九劇で開幕した。韓国で誕生し、日本では2018年に初演。3人の俳優のみで、ひとりの天才詩人の苦悩と葛藤をドラマチックに描き出すミュージカル。上演を重ねるごとに熱狂的なファンを生み、今回で四演目だ。各役、複数キャストの回替わりで上演されるが、大山真志、内海啓貴、池田有希子が出演した初日の観劇レポートを記す。
物語はふたりの青年・超(チョ)と海(ヘ)が、三越デパートの令嬢だという紅(ホン)を誘拐してくるところから始まる。身代金で、まだ行ったことのない海を見に行くのだと。しかし目隠しを外された〈紅〉は、〈海〉を見て懐かしそうな表情を浮かべた。彼らは知り合いだったのか? サスペンスのように始まった物語は、やがて予想のつかない展開へ……。モチーフは、20世紀初頭に生きた韓国の天才詩人、李箱(イ・サン)。文学的奥深さと、激しい感情のキャッチボールが同居する作品を、3人のキャストが時に激情をぶつけ合い、時に駆け引きをし、時に寄り添い、紡ぎ出していく。
〈超〉の大山は、初演では〈海〉をシングルキャストで務め上げ、再演からは〈超〉〈海〉の両役を演じている“ミスターSMOKE”。兄貴分的な役柄を、大きな存在感と静かな迫力で演じる。しかし時折、押し殺した怒りや悲しみが背中から立ち上るような切なさを体現し、さすがのひと言。〈紅〉の池田もまた初演からのキャスト。謎めいた女性である〈紅〉だが、今年の池田〈紅〉は“恋しい”という感情を全面に押し出し、また新たな造形だ。キャリアのある大山と池田は、ジェットコースターのように上下する感情を息をするように自然に、しかも魅力的に見せていく。しかし、ののしりあっていても、その息の合いっぷりからどこか共犯者めいた空気が出てくるのも面白い。一方、27歳だが精神は14歳で止まっている青年〈海〉は、初参加の内海。少年性の強い〈海〉でピュアさや戸惑いをフレッシュに演じるが、後半、彼が覚醒してからの冷たさも印象に残り、面白かった。
今まで浅草九劇では四方を客席で囲ったセンターステージで上演、観客の眼前に俳優がいる緊密さ、迫力も人気のひとつだったが、今回はコロナ禍バージョンで三方が客席、ステージはスクリーンとビニールシートで囲まれた。しかしスクリーンの使い方の面白さや、“囲まれた”ことを利用しステージを煙で満たしたりと、現状を逆手にとった演出の巧みさも光る。さらに、時に照明の加減でスクリーンやビニールシートに俳優の姿が反射し鏡のようになるなど、作品の内容ともリンクし、面白い効果が生まれている。また新たな『SMOKE』の誕生だ。
ほかに東山光明、伊藤裕一、山田元、中村翼、木村花代、井手口帆夏、皆本麻帆が日替わりで出演。なお大山は〈海〉との2役で出演する。東京公演は10月3日(日)まで浅草九劇にて。
取材・文:平野祥恵
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