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演 劇
100年以上前に書かれた戯曲を、気鋭のイギリス人劇作家で演出家のロバート・アイクが翻案。その日本初演版『ザ・ドクター』が、埼玉にて初日の幕を開け、11月4日からの東京・PARCO劇場、さらには兵庫、豊橋、松本、北九州へとツアーを巡る。
イギリスで最高峰を誇る医療施設・エリザベス研究所。その所長ルース・ウルフは、緊急で運び込まれた14歳の少女の治療に当たっていた。と、そこにカトリックの神父であるジェイコブ・ライスが、少女への臨終の典礼のためにやって来る。ルースは患者がパニックを起こす危険があるとして神父の面会を許さなかったが、この出来事が社会問題へと発展していき……。
上演前の取材時、ルース役の大竹しのぶが「なぜこの作者はこんなにいっぺんに問題を提示するのだろう?」と語っているように、約2時間半のこの舞台には、遠い過去から今に至るまでのありとあらゆる人類の問題が詰め込まれている。宗教、医療、人種、ジェンダーなど、舞台はイギリスだが、日本でも決して他人事ではないどころか、それらの問題は年々大きくなるばかりだ。
誰もが差別はよくないということはわかっている。それはルースも同じで、彼女は何度も何度も「グループ分けはしない」と口にする。カトリック教徒かユダヤ教徒か、白人か黒人か、男か女か。彼女はあくまで“医師”であり、その仕事を全うしただけ。だが果たしてそうなのか――。本作が興味深いのは、これらの問題を前半から中盤では、登場人物たち(その多くは医師)の会話からあぶり出していくことだ。さらに舞台は、閉ざされた医療施設から開かれたディベート番組の収録現場へ。そこで見えてくるものとは……。ぜひ劇場で目撃して欲しい。
この作品の核となるのは、やはりルースの存在だ。トップクラスの医療施設の所長にして医師、というある意味で画一化してしまいそうな人物を、ここまで多面的に、生きた人間として演じられるのは、大竹をおいてほかにいないだろう。さらに言えば、ルースの強さと弱さを表現したかのような、服部基の照明の力も大きい。そんな大竹や橋本さとしといったベテラン陣の中でもひけをとらず、若手の俳優陣がそろって良いのが頼もしい。同じチームの医師であるコプリー役の宮崎秋人、若手医師(役名そのままだ)役の那須凛、ルースの小さな友人サミ役の天野はな。栗山の演出のもと、確実に成長した姿を見せてくれており、そういったところにも注目してほしい。
取材・文:野上瑠美子
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