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演 劇
6月4日(土)、『恭しき娼婦』(演出:栗山民也)が新宿・紀伊國屋ホールで開幕した。タイトルの"娼婦"は、アメリカ北部から南部へとやってきたリズィー(奈緒)のこと。彼女は、無実の罪を着せられて逃走する黒人青年(野坂弘)と出会うが、彼女に虚偽の証言をさせようと迫る街の権力者と、その息子フレッド(風間俊介)らが次々と部屋にやってくる。
リズィーの魅力が、物語をぐいぐいと引っ張っていく。くるくると表情が変わり、背筋がすらりと伸びてしなやかに動く。とびあがったり、頭をかきむしったりと、喜びや怒りを表現する。報酬を受け取るのに「いくらか当てる!」と目をつぶって足の指先までふるわせる姿はとてもチャーミングだ。奈緒の演じるリズィーから、動物的な生命力の輝きが放たれている。また彼女は尊厳や意思を持っている。安く買い叩こうとする客には「受け取らない!」ときっぱりと拒絶する。自分を蔑んでくる相手には、毅然と立ち向かう。
尊厳を持つリズィーに影響を受けていくフレッド。社会的に地位ある家に生まれ、周囲の期待を背負うフレッドは、リズィーとの出会いで価値観がゆらいでいく。風間は、フレッドの戸惑いを、仏頂面のなかに声や動きで苛立ちを込めながら演じる。
街の権力者(金子由之)が登場してからが恐ろしい。蔑みの対象である黒人青年と、由緒ある家系の白人男性の「どちらを救うか選べ」と迫る。リズィーの意思、混乱、迷い、信念……その揺れ動きにハラハラし、胸が締め付けられる。タイトルの恭しき(原文:respectueuses)は「敬意を表する」などの意味だ。いったい誰が、彼女に敬意を表していたのか。
舞台美術のいびつな壁の角度と、登場人物の内面を浮き彫りにするような照明が、あらがえない大きな存在を感じさせる。黒人差別が、差別とさえ思われていない時代と地域のこと。黒人青年役の野坂弘の、不安げなたたずまいから目を背けたくても逸らせない。
『恭しき娼婦』が発表された1946年は第二次世界大戦が終結した直後で、人間の尊厳と、権利と、自由が問われていただろう時だ。黒人や娼婦という虐げられる人たちの姿からは、著者・サルトルの強い怒りを感じる。奈緒らによって生き生きと演じられることで、現代でもそこかしこに存在するたくさんの虐げられる瞬間がよぎるだろう。
上演は19日(日)まで。その後25・26日に兵庫、30日に愛知公演あり。
文・取材:河野桃子
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