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クラシック
新国立劇場の2021/22オペラ・シーズンの最後を飾るのは、ドビュッシー《ペレアスとメリザンド》。エクサンプロヴァンス音楽祭、ポーランド国立歌劇場との共同制作で、大野和士芸術監督が指揮する。開幕直前の最終の舞台リハーサルを取材した。
19世紀末の象徴主義の劇作家メーテルリンクの原作に基づく。謎めいた美しいメリザンドと二人の王子(ペレアス、ゴロー)の三角関係。愛と嫉妬が悲劇の結末を招く。このオペラに、いわゆるアリアはない。つまり物語の時間を止めて感情を吐露したり、延々と輝かしい高音を誇示したりする箇所がなく、すべての言葉は、切れ目なく流れる音楽の一部となっている。
演劇とオペラ両方のフィールドで活躍するケイティ・ミッチェルの演出は、リアルだがファンタジック、具体的なのに象徴的。すべてがメリザンドの夢だったという設定は、あまり現実的でないこの物語を夢の出来事≠ニ割り切れて合点がいく。メリザンドは夢の中の自分(黙役の俳優が演じる)の生死に関わりさえする。
随所に埋め込まれている仕掛け(象徴?)も面白い。音楽が始まる前の鼻血≠皮切りにいろいろ出てきて、「これはどんな意味?」「何の伏線?」と脳をフル回転させてくれる。メリザンドが塔の上から長い髪を垂らす有名な場面は、(この演出では塔は出てこないが)官能≠超えてかなりエロチックだ。
歌手陣はきわめて高水準。ペレアス役はベルナール・リヒター。ハイ・バリトンが歌うことの多い役だが、彼のように低い音符でも柔軟な響きを失わないテノールは役のキャラクターにもふさわしい。メリザンド役のカレン・ヴルシュも美しい。2016年デュトワ&NHK交響楽団の演奏会形式上演での同役も鮮烈だった彼女。理論物理学の修士資格を持つ異色の理系歌手だ。ゴロー役のロラン・ナウリは、その二人の題名役を凌駕する存在感。さらに、大野が直接電話して口説き落としたというジュヌヴィエーヴ役の浜田理恵は、歌唱だけでなく、本来出番がない場面での黙役の演技でも重要な役割が与えられている。
全5幕を3幕+2幕に分けた2部構成。「幕」よりも「場」ごとに頻繁に場面が変わる。その場と場を、大野と東京フィルハーモニーの幻想的な響きがつなぐ。上演時間は休憩を含めて約3時間半。
新国立劇場《ペレアスとメリザンド》は7月2日(土)から17日(日)まで全5公演。東京・初台の新国立劇場オペラパレスで。
(宮本明)
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