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クラシック

話題の新国立劇場《イェヌーファ》(ヤナーチェク作曲)が2月28日、初日の幕を開けた。コアなオペラ・ファンならずとも、これは観ないと後悔する舞台だ。
演出はドイツの歌劇場を中心に辣腕をふるうクリストフ・ロイ。幕が上がると、舞台中央に箱状の真っ白な部屋。演出サイドはこれを「テラリウム」と表現している。生物飼育の観察のごとくに人間模様を覗くという意図だろう。全幕がこの切り取られた空間の中で展開する。シンプルながら観る側の集中力を高める装置で、舞台両端での演技を多用する演出プランにも、目と耳が自然に対応する(ちなみにこの部屋。左右の壁が可動式なのだけれど、とてもゆっくりじわじわ動くので、歌や芝居に集中していると気づかないうちに間口が倍ぐらいに拡がっていて、だまし絵のような摩訶不思議。その操作の巧みさにも注目だ)。
無人のこの部屋に最初に登場するのは、あとでイェヌーファの赤ん坊を殺してしまう継母のコステルニチカ。警官らしき女性に連れられているので、ここは取調室なのか。これは台本にはない黙劇で、物語全体が彼女の回想という仕掛け。原作のタイトルが『彼女の養女』であるように、物語の実質的な中心人物はイェヌーファと、このコステルニチカなのだ。
そのふたり、イェヌーファ役のミヒャエラ・カウネとコステルニチカ役のジェニファー・ラーモアが圧巻。特に第2幕で、それぞれの長いモノローグを軸に嬰児殺しが進行していく場面の迫真の歌唱にはぞくぞくした。イェヌーファの相手役ラツァを歌ったヴィル・ハルトマンも、鋭利な輝きと説得力を兼ね備えたテノール。そして70歳超のベテラン、ハンナ・シュヴァルツがイェヌーファの祖母役で、脇役ながらものすごい存在感を示していて驚く。
なんといっても音楽が圧倒的に印象的だ。音楽ありきで歌をひけらかすようなアリアを連ねるタイプのオペラではなく、音楽はあくまでドラマに寄り添った存在。でもそれなのに実に雄弁で、この2時間を超えるオペラの主役はやはり音楽なのだ。特にオーケストラ(チェコ出身のトマーシュ・ハヌス指揮/東京交響楽団)。けっしてカラフルなオーケストレーションではないのだけれど、伴奏という枠を超えて物語の内実に迫る。もし芝居の筋を追うのに集中するあまりにピットの音を聴き流してしまったら、もったいない。
公演は3月11日(金)まで。東京・初台の新国立劇場 オペラパレスで。
取材・文:宮本明
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